= 加藤英夫のカードマジック研究報告 =

No.163

2011年1月28日
(毎週金曜日発行)


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"Card Magic Library"第7巻内容紹介・その1

"Card Magic Library第7巻"では、カーディシャンの基礎テクニックの根幹を占める、重要技法をまとめました。その意図するところをご理解いただくために、前書の一部をお読みください。

‘コントロール’という用語は、“選ばれたカードを密かにトップとかボトムなど、特定の位置に運ぶ技法である”と、日本では定着しています。もちろん欧米においても、選ばれたカードをトップやボトムに運ぶことを‘コントロール’と呼んでいます。

しかし‘Control’という英語は、“運ぶ”という意味よりも、“管理する”とか“操る”という意味が本意であり、アラン・アッカーマンなどはカードマジックの技法全体を解説するDVDを“Advanced Card Control”と題しているぐらいです。

そこで私は‘コントロール’を1冊にまとめるにあたり、いままで私たちが理解していた、“選ばれたカードを密かに特定の位置に運ぶ”という表現から、“選ばれた”という言葉を取り去り、“カードを密かに特定の位置に運ぶ”という定義で、‘コントロール’をくくることにいたしました。

選ばれたカードをコントロールするのと、4枚のAをデックに入れてコントロールするのが、まったく別の技法であるということではありません。ハンドリング的には共通する部分があります。しかし明確な違いもあります。

選ばれたカードをコントロールする場合には、カードを選ばせて返させる、というプロセスがコントロールのまえにあるからです。したがって、選ばれたカードをコントロールするやり方については、カードを選ばせるという操作にふさわしいコントロール法を使うということがポイントとなってきます。


この前書の下線を引いた文章こそ、私がカードマジックの技法についてもっとも重視している点です。ある技法がそれ自体でいくら優れていても、その技法を行うまえの動作、技法を行ったあとの動作とうまく連携するかどうかということが、使用する技法を選択するときのキーポイントとなるのです。

前後の動作に連携する技法を使うこと

わかりやすいように例をあげましょう。

3人の客に1枚ずつ選ばせたカードを、デックの中に返させてすべてをトップもしくはボトムに集めたいとします。この目的を達成するには、

1.どのように選ばせるか
2.どのように返させるか
3.どのように集めるか

という3つの行為を連鎖させて考えなければいけません。たとえば、デックを両手の間に広げて、3人に1枚ずつ抜かせたとします。いま、3人の客が1枚ずつカードを持っていて、マジシャンはデックを持っています。その状態から3人のカードをどのように返させて、どのように1カ所に集めるかを考えるとすると、なかなかうまい方法が思いつきません。

188ページに解説されている'マルティプルヒンズーシャフルコントロール'は、見た目にはつぎのようなものです。

1人目に対して、ヒンズーシャフルしてトップをかけさせます。左手のトップカードを取らせておぼえさせトップに戻させるか、もしくはそのカードを押し出してそのカードの表を見せるかします。そして残りのカードをその上にシャフルします。

2人目と3人目に対しても、1人目にやったのと同じやり方をします。3人目に対してそれが終わった時点で、すでに3人のカードはボトムに集まっています。


すなわちこの技法では、カードを選ばせるのをヒンズーシャフルで行い、返してもらうのもヒンズーシャフルの途中に返してもらい、そして返してもらったあとヒンズーシャフルを完結するさせるときにコントロールしています。

何人にカードを選ばせても、つねにボトムに集まっていきますから、同じカードが選ばれる心配もありません。最初にボトムにクリンプカードをセットしておけば、たとえば10人にこの方法で選ばせたとしたら、最後にクリンプを利用してカットすれば、トップから1人目から10人目のカードが順にコントロールされることになります。

この技法は1940年には存在していたのですが、世に初めて現れたのは、雑誌"マジック"2006年5月号においてでした。
たいへん優れた方法なので、秘密がずっと隠され続けてきたのです。そのやり方を読んだとき、「こんなすごいものが埋もれていたのか」と、感動したものです。

現象が技法の怪しさをなくすことがある

1枚のカードを見せて、それをデックの中央に入れてから、魔法の動作としてリフルパスして、トップからそのカードを現したとします。

このような動作の連係のさせ方では、リフルパスの部分に怪しさの焦点が集まり、「あのとき何かやったな」と感じさせてしまいます。

同じカードの移動のためにリフルパスを使うにしても、つぎのようなやり方は、現象が技法をカバーしてくれる顕著な例です。195ページに解説されている、ロバート・マクファーソンの‘ディテクティヴエーセズ’はつぎのようなものです。

赤いAをトップとボトムに表向きに置き、デックをリフルしてストップをかけさせ、そこから分けて持ち上げ、右手のボトムカードをおぼえさせ、ボトムプレイスメントを行います。そしてリフルパスを行います。デックを広げて、サンドイッチ状態を見せ、選ばれたカードを現します。

ボトムプレイスメントをコンビンシングコントロールに置き換えるだけで、超一級のビジュアルマジックになります。これもまた、雑誌"リンキングリング"1962年7月号に書かれていたという、埋もれていた宝物です。

その動作を行う口実があるかどうか

'スプレッドカル'の章では、マイケル・クローズの解説がたいへん優れていますので、"Workers 5"より引用しています。その中でたいへん重要な点としてつぎのように述べています。

カルという技法は、表面上の動作の陰で秘密の動作を行うという、典型的な技法です。この技法を分析するとき最初に考えなければならないことは“表面上の動作とは何か”ということです。デックを表向きに両手の間に広げることには、よく使われる2つの口実があります。ひとつ目は、必要なカードを抜き出すという動作です。ふたつ目は、カードがよく混ざっていることを見せる動作です。

クロースが指摘したこの点もまた、使う技法を決め、その技法をどのように行うかを決める上での重要なポイントになります。たとえば、パスという技法を行う上で、重要なポイントとは何でしょうか。もちろん正しいやり方を習得した上での話です。

パスはアングルに弱い技法なので、演じるときのアングルに配慮することが重要であることは、とうの昔から指摘されてきました。しかしそれよりも重要なことは、右手をデックの上にかけるという行為に対しての口実です。

右手をデックにかけて、パスをやってから右手をどける、などというのは論外です。右手をデックにかけたからには、それを正当化するつぎの動作が必要なのです。第7巻では、私が世界でいちばんパスのうまいと思う、ゲオフ・ラタのパスを取り上げて、その点について詳しく書いています。



以上のように第7巻では、技法の正しいやり方を解説するだけでなく、技法を前後の脈絡の中に埋め込むとい考え方、現象にもっともインパクトを与える技法の使い方など、カーディシャンとしての総合力を高めるための知識を得ていただくという観点でまとめています。

次号においては、どのような技法が解説されているか、そしてそれらを使った素晴らしい作品についてご紹介いたします。

それではまた来週!