= 加藤英夫のカードマジック研究報告 =

No.238

2013年11月15日

応援団サイト



引き算を使いたくない

"今後はカードマジックの質を向上させる仕事をしていきたい"ということを、どこかに書きましたが、言ってはみたものの、演技する機会の多くない私としては、演技的な面での改良というのは、なかなか思いつきにくいのが現実です。そこで当面は、トリックの構造的な部分での改良点を見つける作業に取り組んでいこうと思います。たぶん、そのうち調子が出てきて、色々な面での改良点を見つけられるのではないか、という予感もします。

そのような作業のひとつとして今回取り上げるのは、ピター・ワーロックがジャック・エイヴィスとロバート・ニールの3人でセッション中に、チャールズ・ジョーダンの'スピリットマセマティシャン'について論議したことに端を発し、のちにワーロックがこのように完成させたとのことです。ちなみに'スピリットマセマティシャン'はつぎのようなトリックです。

相手に好きなカードを言わせ、マジシャンはまずそのカードと同じマークのカードをポケットから取り出します。つぎに数を当てると言って、何枚かのカードをポケットから出しますが、それらの数の合計が選ばれたカードと一致します。

やり方は、ポケットに入れたマークの違うA、2、4、8から、まず該当するマークのカードを取り出し、そのあと合計が相手の言ったカードの数となるようなカードを取り出します。二進法の性質によって、すべての数を構成することができます。ただし、マークを示すカードとして取ったカードも、数に含める必要がある場合もあります。

さて、これから解説するワーロックの作品が、古典的とも言えるジョーダン作品とそれほど直接的関連があるとは思えないのに、ジョーダン作品について言及したのは、つぎのような意図があります。すなわち、古い作品を研究することによって、思考が発展して、新しい作品にたどり着くことがある、ということの例として取り上げたのです。

ワンモアリバー
= ピーター・ワーロック、雑誌"ニューペンタグラム"、1969年8月 =

準 備

封筒にクラブのA、ハートの3、スペードの6、ダイヤの9を入れておきます。残りのデックをトップからつぎのようにセットします。Xは任意のカードです。

X、6D、AH、9S、3D、AS、9H、3S、9C、6H、Z、6C、X、X、3C、、、、。

そしてダイヤのAをデック中央に表向きに入れておきます。

方 法

封筒から面を見せないで4枚を抜き出して、裏向きにテーブルに置きます。「これから選ばれるカードの予言をするのですが、予言をあなたに決めていただきます。これら4枚のカードは全部違うマークで、違う数のカードです。まず1枚のカードを指さしていただいて、そのカードのマークが選ばれるカードのマークとします。さらに1枚のカードを指さしていただき、そのカードの数が選ばれるカードの数とします」と説明します。

相手が指さした1枚目を表向きにしたらハートの3だとします。「選ばれるカードのマークはハートです」と言います。相手が指さした2枚目を表向きにしたらスペードの6だとします。「数は6です。ですから選ばれるカードの予言は'ハートの9'です」と言います。

「2枚のカードが残っていますが、この2枚のカードの数が選ばれたカードの位置を示しています。これが9でこれがAですから、2枚の数を合計すると10です。ではあなたに10枚のカードを置いていただきます」と言って、相手にディールさせ、もういちど最初の2枚で予言されたカードを復唱させてから、最後にディールされたカードを表向きにさせます。

上記の例のように、1枚目の数が3で2枚目が6というように、最初の方が数が小さい場合は、上記のように2枚の数を足し算して数を決めますが、もしも先に大きい数の方が表向きにされて、あとから小さい数が表向きにされた場合は、大きい数から小さい数を引き算して数を決めます。

1枚目がダイヤで、2枚目がAの場合、残りのカードには言及しないで、デックをリボンスプレッドして、ダイヤのAを現します。


2枚の数を足し算させたり、引き算させたりするのは、間違いなくマセマティカルな雰囲気を醸し出します。その部分を少しでも和らげるためにつぎのようにやることを思いつきました。

足し算の場合には、残りの2枚のうちの1枚を表向きにして、その枚数だけデックからディールさせます。さらに2枚目も表向きにして、その枚数だけディールさせます。すると最後にディールされたのが予言されたカードです。

引き算の場合には、残りの2枚の表をちらっと見て、まず大きい方の数を表向きにして、その数でディールさせます。そして残りのデックを置いて、ディールされたカードを取らせます。それから2枚目を表向きにして、その枚数だけ手に持っているカードからデックの上に捨てさせます。すると手に残っているトップカードが選ばれたカードです。

なお前述の原著通りのやり方では、最初にデックをフォールスシャフルすることが書かれていません。シャフルするこのはあえて強調するようなことではありませんが、シャフルしてから演じた方が、マセマティカルな雰囲気を少しでも減らせます。

なお、2枚のカードのマークと数で予言を決める、というタイプのすべてのトリックにおいて、なぜ2枚で予言するかということについての、正当性を感じさせる説明の仕方があります。それは、「1組の中には同じカードがないので、2枚のカードでマークと数を決めます」ということを言うということです。

今回のトリックでは、「これから1枚のカードが選ばれますが、1組の中に同じカードはないので、2枚のカードで予言を決めます。1枚目はマークで、2枚目は数です。ここに置いた4枚はすべて違うマークで、すべて違う数ですから、どの2枚を選ぶかによって、色々なカードになり得るのです。ではマークから決めましょう」というような感じで進めるとよいでしょう。

こういうことを言わないでやるのと言ってやるのとでは、魔法としてのマジックとパズルとしてのマジックの差を生じるのではないでしょうか。