= 加藤英夫のカードマジック研究報告 =

No.244

2013年12月27日

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'レイジーマンズカードトリック'の源泉は?

前号において、ダーウィン・オルティーズが'レイジーマンダズカードトリック'について、マジックカフェで重要なことを指摘していると書きました。"スカーニオンカードトリックス"(1950年)に'レイジーマンズカードトリック'のもととなる、ジャック・ミラーの作品が出ているというのです。

私はてっきり、"50 tricks, You Can So, You Will Do, Easy To Do"( 1946年)に書かれている、'ザットナンバーダウン'と同じものが、スカーニの方にも書かれているのだと思いましたが、読んで見て驚きました。その2作品は類似してはいるものの、重要な違いがあったのです。その違いを見ていただくために、ジャック・ミラーの両作品を翻訳することにいたしました。

ザットナンバーダウン
= ジャック・ミラー、"50 tricks, You Can So, You Will Do, Easy To Do", 1946年 =

方 法

同じマークのAからKをボトムにセットしておきます。

それら13枚より上から相手に1枚抜いておぼえさせ、トップに返させて、1回カットします。すると選ばれたカードの上にAからKのスタックがくっつきます。

デックを表向きにして、相手に何回もカットさせます。そのうちにスタックしたマークのカードがフェースに出たとき、ストップをかけます。たとえば8のカードが出たところでストップしたとします。その8のカードを指さして、「このカードの数を使ってみましょう」と言います。

デックを裏返して、8枚のカードをディールします。そして最後に置いたカードを表向きにします。選ばれたカードです。

上記のやり方では、ボトムカードの数が何であるかを指摘して、その数を使ってトップからディールする、というところが、根本的に'レイジーマンダズカードトリック'と異なります。

トラベリングカード
= ジャック・ミラー、"スカーニオンカードトリックス", 1950年 =

方 法

同じマークのAからKをボトムにセットしておきます。

デックを裏向きにテーブルに置き、相手に半分ぐらいカットさせ、持ち上げた半分をよくシャフルさせます。それからトップカードをのぞいておぼえさせます。そのパケットをテーブルのパケットに重ねさせ、デックを1回カットさせます。

つぎにデックを表向きにして、相手に何回もカットさせます。そしてスタックしたマークのカードが出たところでストップさせます。そのときのフェースカードの数が、選ばれたカードのトップからの枚数目を示しています。

それから相手にデックを裏替えして、デックの上に伸ばした指を当てさせます。精神集中する演技をしてから、「いまあなたのカードは上から20枚目にあります。でもどんどん上がり始めました。いま15枚目です。12枚目、8枚目、5枚目、さらにいちばん上までくるはずです」と言います。

相手の顔を見て、「失礼、あなたが指で押さえているので、5枚目で止まってしまいました」と言って、相手にデックを取らせ、5枚のカードをディールさせ、相手のカードを名乗らせてから、5枚目のカードを表向きにさせます。

と言うわけで、スカーニの方に書かれているのは、ボトムカードの数を指摘するのではなく、演出は違うとしても、'レイジーマンダズカードトリック'とやり方は同じです。しかもデックの上を指で押さえさせるという、'レイジーマンズカードトリック'の演出の一部も含まれています。

アル・コランの'レイジーマジシャンダズアカードトリック'が現れたのが1954年ですが、その4年前に、指でデックを押さえるこのやり方が公表されていたのですから、アル・コランがこのトリックを知っていたと考えるのは、それほど無茶なことではないと思います。

であるとすればコランの解説したものは、スカーニがジャック・ミラー作品として紹介したものに、レイジーなマジシャンの演出だけを加えたものであるということになります。

いずれにしても、ジャック・ミラーのトリックが、'レイジーマジシャンズカードトリック'の原点であることが、より明確になってきました。と思ったのですが、、、、

ところがそうではありませんでした。まるでそれはミステリーのどんでん返しみたいです。今回の再調査中に、私のパソコンの中から雑誌からの切り抜きが見つかりました。以下の図は全体の半分ぐらいです。

これはマジックカフェで'レイジーマンダズカードトリック'の考案者について論議していたとき、誰かが私あてに直接送ってくれたものです。その人はその切り抜きの出典を記憶していないと言っていました。何年に発行されたのかもわかりませんでした。

ですからそれほど重要ではないと放っておいたのです。ですが今回、'I'll do it agian'と'Helynn Boyar'という著者名によってグーグル検索をかけたら、それが雑誌"Genii"の1942年3月号に出ていることがわかったのです。ミラーの'ザットナンバーダウン'よりも4年先行しています。以下のアドレスで確認できます。

http://www.geniimagazine.com/magicpedia/Genii_1942_March

いまからへリン・ボヤーの書いたものの翻訳を読んでいただきます。私と同じように驚いていただけると思います。

アイルドゥーイットアゲイン
= ヘリン・ボヤー、雑誌"ジニー"、1942年3月 =

現 象

1枚のカードが選ばれて、客がデックに返します。客はデックを好きなだけ何回もカットしてから、トップカードを表向きにします。そのカードの数だけ、トップからディール目すると、その枚数目から選ばれたカードが現れます。

方 法

デックのボトムより、AH、2C、3H、4C、5H、6C、7H、8C、9H、10C、JH、QC、KJとセットしておきます。

セット部分より上から1枚のカードを抜かせて、おぼえたらトップに返させます。そして客に何回かカットさせます。デックを受け取ったらボトムカードを見て、それが奇数のハートか偶数のクラブである場合、トップカードを表向きにします。

もしもボトムカードがセットしたカードではない場合、セット部分のカードがボトムにくるまで何回かカットします。

トップカードを表向きにして、そのカードの数を見たら、そのカードをボトムに置き、トップからいま見た数の枚数を順番が変わらないように右手に取っていき、しかるべき枚数目のカードを表向きにします。それは選ばれたカードです。

選ばれたカードを裏向きに戻して、カードをそろえるときにその上にブレークを作れば、またセット部分をボトムに運べますから、トリックを何回でも繰り返し演じることができます。


ジャック・ミラーがこのトリックを読んでいたかどうかわかりませんが、私にはそのように思えてなりません。しかし推測で判断することはできません。

以上のような'レイジーマンズカードトリック'にまつわる謎めいた変遷は、他人の作品から影響を受けたバリエーションを書くときに、影響を受けた作品の考案者をクレジットしないことの連続で発生します。他にもそのような変遷で生まれてきた傑作が、かなりあるのかもしれません。