= 加藤英夫のカードマジック研究報告 =

No.256

2014年3月28日

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アル・ベイカーは、マジックの見せ方についての蘊蓄を残したマジシャンです。今回は、"Magic Ways and Means"の序文から抜粋して紹介いたします。

アル・ベイカーの教え
=アル・ベイカー、"Magic Ways and Means"の序文より、1941年 =

自分自身のキャラクターで演技を始めなさい。他人になろうとしてはいけません。

マジックではタイミングが重要です。客が「あっ、箱からウサギが出てくるぞ」と思ったときにウサギが出てきたとしたら、驚きが弱くなってしまいます。

本に書かれているセリフというものは、著者に合ったものです。長いセリフを使ってはいけません。そのセリフが終わったとき、最初に何をいったか、観客は忘れています。

トリックというものは、なるべくシンプルなものがよいのですが、それからどれだけの不思議さを生み出せるか、よく考えましょう。ただ通りいっぺんにやって、「うまくだませた」なんて考えないことです。

ガラスの円板を水入りのコップに入れて、コインを消失させるとしましょう。マジシャンは、「それが新しいマジックなの」と言うかもしれません。でも問題は、マジックの価値はトリックそのものではなく、それをどうやって見せるかなのです。

ビギナーにとって重要なのは、演技をやめる潮時を知るということです。たとえば、私は子供ショーで1時間演じることができますが、担当者に必ず、「どのぐらいやったらいいですか」とたずねます。彼女が、「どのぐらいがよろしいですか」といってきたら、私は「30分ぐらいですね」と答えます。けして1時間とは言いません。若いマジシャンは、「私はいつも1時間やってますので、1時間やらせてください」というでしょう。でもそれは彼の都合です。私が「30分」といったときに、彼女が「45分にしていただけませんか」と言ったら、「けっこうです。そのようにしましょう」と言います。演技時間というものは、プロにとっていちばん重要なことです。

子供ショーで立派に仕事ができるということは、将来にもつながることです。お母さんが喜び、お父さんに話をして、お父さんが仕事や知り合いの関係で、仕事をくれることがあります。

子供ショーではどんなことをやったらよいでしょう。何をやったらいけないでしょう。いちばん大切なことは、母親が心配したり、嫌な思いをさせず、子供が喜んでいる姿を見て、母親に喜んでもらえるようなことをやるということです。

ウサギを取り出すのは、ショーの初めの方にやってはなりません。子供が騒いで、ショーがそこでストップしてしまいます。ウサギとか紙テープなどは、最後に取り出しましょう。

子供によっては、舞台に上がると、極端にこわがることがあります。子供が舞台から落ちたら、たいへんです。子供をケガさせたら、ショーは全滅します。十分気をつけましょう。

マジシャンは、子供を馬鹿にするという間違いを犯すことがあります。子供をこっちに動かしたり、あっちに動かしたりすると、親が怒ります。子供相手だと、ちょっと油断すると、このようなミスを犯しがちです。

私はあるとき、1人の子供に質問しました。「ジョージ・ワシントンブリッジは、誰にちなんでつけられた橋ですか」と。子供が答えられそうにないと感じたので、私はすぐに「もちろんジョージ・ワシントンですよね」とセリフを続けました。これで彼に気まずい思いをさせずにすみました。

子供に食べるものを与えてはなりません。もしもつぎの日に体の具合が悪くなったとしたら、あなたのせいにされてしまいます。

子供を楽しませるには、子供への気づかいが大切です。私たちが何日間かのショーをやろうとしていた町で、ショーを見にこようとした女の子が、たまたま骨折してこられなくなったことを知りました。私は彼女の病院を訪ね、ベッドのわきでマジックショーをやってあげました。そのことが人々に伝わり、私が子供に思いやりのあるマジシャンだと評判になったことがあります。

変色ハンカチをやるとき、マジシャンはなるべく小さい筒を使いたがります。これはタネの筒がよく隠れるからという理由からです。しかしハンカチを手に入れるときに、必死に押し込むというのはおかしいのです。しかもそんなにぎゅう詰めにしたら、出てきたハンカチはしわだらけになってしまいます。優れたマジシャンなら、余裕のあるギミックを使い、動作が自然に見える方を選択するでしょう。

汚いハンカチを使う人もいます。洗えばきれいになるのにですよ。汚い玉子を使う人もいます。これではニワトリに失礼じゃないですか。

あるマジシャンが、カードを何回も何回もシャフルしたので注意したところ、「1回や2回シャフルしたって、よく混ざらないじゃないですか」と言いました。「あなたはそのことを知っていたとしても、観客から見れば、2回もシャフルすれば十分なんですよ」と教えてやりました。

私はあるコンベンションで、「新しいマジックがたくさん見られましたか」ときかれたので、「いいえ、新しいものは見られませんでしたが、やってはいけないことをたくさん見ることができました」と答えました。

マジシャンを見たマジシャンに、「彼は何をやったんですか」とたずねたら、「別に新しいことはやりませんでしたよ、ダイボックスとか20世紀シルクなどでした」と言いました。「受けていましたか」ときくと、「観客は喜んでいたみたいですね」と言いました。マジシャンがマジシャンを見る観点は、たいていの場合、このようにずれています。「何か新しいものは」とい観点ではなく、エンタテイメントの観点でマジシャンの演技を見てください。

見たり読んだりしたからといって、色々なパスのやり方を練習するのはやめましょう。ひとつしっかりできれば十分です。たとえできなくても問題ありません。他の方法を使えばよいのです。

いつでもどこでも、ちょっとしたことができるように、準備しておきましょう。「ちょっと道具がないので」と言ってはなりません。ちょっとしたこと、たとえそれが古くからあるものでも、利用価値はあるものです。

ショーが始まっているのに、カップルが向こうから自分たちの席に向かって歩いてきます。「ショーが8時に始まるといったら、8時に始まるのですよ」といえば、観客は笑うでしょう。もう1組そのあとに入ってきたとしましょう。「いままで何をやってたんですか」と言えば、また観客は笑います。でも気をつけてください。このようなジョークは、私の年齢だから許されるのです。若い人が使うのは、危険です。

ギャグを言うときは、観客のイマジネーションに語りかけましょう。説明しすぎのギャグはだめです。

大きな物を消失させたときは、消失させたままにしなさい。私はあるマジシャンが、大きな鳥かごを見事に消して、他の場所から取り出すのを見たことがあります。観客は消えたときに驚きましたが、出てきたら、「ああ、あそこにあったのか」ということになってしまいます。

マジシャンの楽屋を訪ねたときは、人の道具に手を触れてはなりません。

マジシャンがトリックを見せてくれたとき、「やり方を教えてください」とは言ってはなりません。彼が教える気になるような言い方をした方がよいのです。私はよくナート・ライプチッヒに、「いつかそのやり方がおぼえられたら嬉しいですね」と言ったものです。