= 加藤英夫のカードマジック研究報告 =

No.263

2014年5月16日

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'インビジブルデック'の演出は誰が考えたか?

'インビジブルデック'のデックの構造については、雑誌"ジンクス"、1938年10月号で、ダイ・バーノンが'ブレーンウェーブデック'の開発経緯を紹介したとき、'インビジブルデック'と同等の構造、すなわち'ブレークウェーブデック'とは反対に、選ばれたカードが表向きのデックの中に裏向きに現れる、というものも考えていたと書いています。ただしバーノンが使用していた薬品は、のちにジョー・バーグが使用した今日でも使われているラフ加工液とは違う、粘着力の強いものだったようです。

今回は、デックの構造のことではなく、'透明なデックを使う'という演出がどのようにして生まれたかを考察することにいたします。

今日使われている'インビジブルデック'の演出は、エディ・フィールドが考案して、ドン・アランが1960年にアメリカの有名なバラエティ番組、'トゥナイトショー'で演じてから流行したと言われています。エディ・フィールドがその演出を思いついた経緯について、ジョン・ラッカバマーが"グレーターアートフルドッジスオブエディ・フィールド"(1997年)に、つぎのようなことを書いています。

エディ・フィールドは、1936年にジョー・バーグが'ウルトラメンタルデック'が発売されて間もなく、つぎのような経緯で演出を生み出しました。

フィールドにはロジャーという親しい友人がいましたが、ロジャーは空軍に属していましたが、空軍をやめたくて頭がおかしくなった振りをしていました。飛行機の着陸するときのターゲットのサークルのまん中に座ったり、夜は屋根の上に登り、星空に向かってわけのわからないことを言ったりしました。そして彼は独房に入れられてしまいました。

それを心配したフィールドがロジャーをたずね、2人は休憩室で会いました。まわりには警護の軍人や医師もいました。突然ロジャーがカードをシャフルする真似を始め、フィールドにポーカーをやろうと言い出しました。フィールドは彼に付き合うことにして、見えないカードでポーカーをプレイする真似を続けました。

フィールドはロジャーに付き合いながら、もしかしてこのことはマルセル・マルソーのパントマイム的にうまくまとめれば、使えるものになるかもしれないと考えていました。走行して、フィールドは今日使われている'インビジブルデック'の演出を作り上げたのです。


フィールドのその話があったのが何年だったか、重要なことをラッカバマーは記していませんが、別の情報では少なくともフィールドが'ウルトラメンタルデック'と出会ったのが1942年だったとわかっています。ですからそれ以降であったことがわかります。

セオダー・アンネマンが透明なデックを使ってマジックをやる、ということを思いついたのはもっとまえのことでした。彼は雑誌"ジンクス"1935年9月号につぎのように書いています。


長い間、つぎのようなマジックができないかと考え続けてきました。できたらたいへんユニークなマジックになると思いましたが、方法を考える時間がとれなかったので、具体的なやり方はまだ案出していません。その現象はつぎのようなものです。

マジシャンは手にカードケースを持っている恰好をして、中からデックを取り出す演技をします。その見えないデックをシャフルして、カードを広げ、客に1枚のカードを抜かせます。客も演技して、そのカードを自分だけが見ておぼえる演技をします。そしてそれを見えないデックの中に返します。

マジシャンは見えないデックをポケットに入れ、見えないカードを見えるようにすると言います。客のカードをたずねてからポケットに手を入れて、見える1枚のカードを抜き出します。それは客の言ったカードです。というわけですが、見えないカードを扱う演技で、色々と面白いことが織り込めます。必ずや具体的な手法が作れると思います。


これをエディ・フィールドが読んだかどうかはわかりません。ラッカバマーが前述のように書いているのですから、読んでいなかったのでしょう。いずれしても、リバース現象と飛行現象の違いはあるものの、見えないデックでマジックを演ずるというアイデアは、フィールドよりアンネマンが先行していたことは明白です。

しかしながら今回、見えないデックを扱うという演出がアンネマン以前に存在していたことを発見したという報告を見つけました。ビル・アボット著"カクテルカードマジック"(2008年)には、つぎのようなことが書かれています。

1934年1月13日に公開された、"オリバー8世"という短編映画の中のに、見えないカードをもて遊ぶシーンがあり、フィールドがやっているような扱いがほとんど演じられています。そのシーンのいくつかのシーンは切り出されて、アボット社のある本の中に収録されています。

この映画が登場したのが、アンネマンが書いた1年半まえのことですから、アンネマンがそれを見て書いた可能性もなきにしもあらずです。

というわけですが、これらの情報を集めたところで、'インビジブルデック'の演出の考案者がエディ・フィールドであることは覆りません。'ウルトラメンタルデック'でその演出を初めて演じたのは彼であるのですから。

この例からわかることは、ひとつのカードマジックが有名になるのは、1人のマジシャンが突然考え出したものではなく、それよりもまえに多くの人の英知が重なって結実したものである場合が多いことです。そういうことを思いながら学べば、カードマジックの価値がより味わい深いものとして感じられることでしょう。