= 加藤英夫のカードマジック研究報告 =

No.300

2015年1月23日

応援団サイト



"Cardician's Journal"が300号を迎えたのを記念して、今回は特別なものをお届けします。

'ワイルドカード'誕生の真相

パケットトリックの大ヒット商品'ワイルドカード'については、ピーター・ケーンの'ウォッチジエース'をフランク・ガルシアがリップオフしたかのように言われていたことがありました。ケーン作品を土台としていたことは歴然とした事実ですが、必ずしもリップオフと悪口を言われるようなものでなかったとも言われています。そのへんの事情を"マジックペディア"から探ってみましょう。

'ワイルドカード'は、ジョン・ハマンの'ミスティックナイン'に端を発します。それは1958年発行の"カードマジックオブジョン・ハマン"に登場いたしました。そのバージョンでは、10枚のノーマルカードが使われます。('ミスティックナイン'は、"Card Magic Library"第7巻、67ページに解説されています)。

ピーター・ケーンはそのハマン作品をもとにして、ダブルフェースカードを使用したバージョン'ウォッチジエース'を雑誌"ヒューガードマジックマンスリー"、1962年4月号に発表いたしました。

ビル・サイモンが"ヒューガードマジックマンスリー"に書かれていたピーター・ケーンの'ウォッチジエース'を読んで、タネンマジックショップでオーナーのルイス・タンネンにやって見せました。タネンはフランク・ガルシアに、そのトリックをタネンマジックショップで売れるようにアレンジしてくれないかと頼みました。そのようにして'ワイルドカード'は誕生したのです。

ガルシアのハンドリングはピーター・ケーンのハンドリングとかなり違っていました。もしもルー・タネンが広告や説明書に、"このトリックはピーター・ケーンの"ウォッチジエースを土台としたものです"と表記していたとしたら、ガルシアは改良バージョンの考案者として名声を残したことでしょう。実際は、ガルシアの名前で発売されたこの商品は、ピーター・ケーンへのクレジットはなく、その結果、ガルシアはケーンの作品を盗んだと言われることになったのです。ガルシアはケーンのダブルフェースカードを使うというアイデアを借用しただけなのにです。

'マジックペディア'には、そのようにフランク・ガルシアの改良による貢献を称える主旨の書き方になっています。私がそれまでに読んできたガルシアに批判的な意見とはスタンスが違っているので、私はピーター・ケーン作品を確認することにして、まえにも読んだのですが忘れているので、再読することにいたしました。原著から忠実に翻訳いたします。

ウォッチジエーセズ
= ピーター・ケーン、雑誌"ヒューガードマジックマンスリー"、1962年4月 =

現 象

マジシャンは9枚のカードを見せます。そのうちの8枚はバラバラのカードであり、1枚だけがAです。

カードは表向きでカウントされてから、4枚の2つのグループに分けられ、一方は表向きに、他方は裏向きに置かれ、それらの間にAが裏向きに置かれます。

「Aに注目!」とマジシャンがいった瞬間、すべてのカードがAに変化しています。その現象は驚異的で、誰もが裏と表を見せられたカードが変化したのを認めざるを得ません。

準 備

4枚のダブルフェースカードを使います。一方の面が同一のAで、反対の面がバラバラのカードです。そして5枚のノーマルな同一のAを使います。

テーブルにノーマルなAを5枚表向きに置き、その上にバラバラのカードの面を上に4枚のダブルフェースカードをのせます。この9枚を、使用するデックのフェースにセットしておきます。

方 法

デックから9枚のカードを取り、右手にビドルポジションに持ちます。すなわち、親指は手前のエンド、中指と薬指を前方のエンドにあてて保持します。

左手の親指を使って、上から4枚のカードを1枚ずつ左手に引いて取ります。ここでいったんポーズを取り、つぎのAを取ろうとしたとき、右手に持っている5枚のノーマルAを左手の親指の付け根にあて、先に取った4枚を右手の親指と薬指で右に引いて取ります。

右手のカードをまえと同じやり方で左手に引いて取り続けます。観客は初めに見たカードを2度見ることになりますが、スムーズに行えば、すり替えが気づかれることはありません。(クレジット:ジョン・ハマン)。

言うまでもないことですが、カードは最初の状態に戻ります。

9枚を裏向きにして、上の4枚をテーブルの左の方にひとつの山にディールします。カードを表向きにして、上の4枚を表向きにテーブルの右の方にひとつの山にディールします。残りのAを、裏向きに左のパケットと右のパケットの中間に置きます。

「Aに注目!」といいます。

左の裏向きのパケットを取り上げ、裏向きのAに触れます。カードを表向きにして、広げて全部Aに変化したのを見せます。

少しポーズを取ったのち、右手に持った4枚の表向きのAを、右の表向きのパケットの下に入れ、すくうようにして8枚のカードを取り上げます。右手を手前に返し、裏向きの4枚を左手に取り、右手の表向きの4枚のAはテーブルに置きます。以上の動作は、カードでカードをすくい取るという動作に見せるもので、バート・アラートンの技法です。

左手の裏向きのカードを中央のAに触れてから、表向きにして広げ、4枚のAに変化したのを見せます。これらのカードで中央のAを表向きにして、結果的に9枚全部がAになったのを、可能なかぎりドラマチックに見せます。


ピーター・ケーン作品では、4枚のカードで4枚をターンオーバーすることが、ガルシアバージョンと大きな違いです。フランク・ガルシアが1枚ずつのターンオーバーに改良したのだとしたら、たしかに'ワイルドカード'が成功したのは、ピーター・ケーンのマジックをフランク・ガルシアが商品として完成させた、と言われる所以に納得します。

さらに、バラバラのカードと書かれていますが、これを同一のカードに変更したことも、パケットトリックとしての個性を出すのに寄与しています。

マジックペディアには、"ガルシアはケーンのダブルフェースカードを使うというアイデアを借用しただけなのにです"と書かれています。

しかしながら、ガルシアがケーンから借用したのはダブルフェースのアイデアだけではありません。ハマンカウントでのすり替えもケーンのアイデアですし、4枚のノーマルカードを現して、それをダブルフェースとすり替えて後半の変化を現すことも、ケーンのアイデアです。ガルシアが変えたのは、4枚まとめてすり替える代わりに、1枚ずつすり替えるようにしたことと、バラバラのカードではなく同一のカードを変化させるということです。

私はガルシアが盗んだとは言いません。彼はケーン作品を磨き上げてより素晴らしい作品に完成させたのですから。

しかしながらこのウォレットの表記を見たとき、ピーター・ケーンはどう感じたのだろうかと思いました。