= 加藤英夫のカードマジック研究報告 =

No.307

2015年3月13日

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デックの間にコインをはさむ

アームストロングのデックに輪ゴムをかけるという考えについて、頭の中で考えていたとき、"ブレークしたところに輪ゴムをはさめば、デックから手を離してもブレークが保てるな"と考えましたが、その考え自体は何の利用法も思いつきませんでした。なぜか私は"輪ゴムの代わりにコインをデックの間にはさんだらどうだろう"と思ったのです。

このように使う物を他の物に替えるというのは、オズボーンのチェックリスト法の第6番目の思考テクニックです。

使う物を取り替えることによって、いままでの物では起こらなかったことが起こることがあるのです。コインには厚さがあります。"もしかするとはさんだ隙間からインデックスが見えるのではないか"と私は思いました。そこで私はベッドから出て、すぐにトライしました。

天海先生も言いました。"何かを考えるときは、物を持って考えた方がよい"と。コインの厚さは1mmぐらいですから、それだけの隙間からインデックスをグリンプスするのは無理です。

しかし、しかしですよ。デックの中央にコインをはさんで左手に持ち、左指先をデックの右サイドに当てたとき、左サイドの隙間が開いたのです。そうです、テコの原理です。このようなことは、頭だけで考えていてもなかなか見つけられるものではありません。"道具が教えてくれる"という顕著な例です。

そのときデックの裏面が右に向くように左手をねじってやれば、開いた隙間からコインの上のカードのインデックスをグリンプスすることができます。もちろん、左手をそのような状態にする理由づけが必要ではありますが。

このようなアイデアを見つけると、もう出発点になったアームストロングのトリックはどうでもよくなってしまいます。というよりも、出発点の考えなど捨て去った方がよいのです。

いま思いついたアイデアを利用するのに最初に立ちはだかるのは、どのようにしてデックの中にコインをはさむか、ということです。

単純に考えて単純に思いつくのは、コインを密かに隠していて、選ばれたカードの上とか下に密かにはさむということです。たとえば、コインを左手にフィンガーパームしていて、その上にデックを持っています。両手の間にデックを広げて、相手に1枚抜かせます。相手がそのカードを見ているときに、デックをまん中あたりから分けますが、コインを滑らせて右手のカードの下に持ちます。左手のカードの上に相手からカードを返してもらい、その上に右手のカードを置きますが、コインを相手のカードの上に置いて、カードをそろえます。

コインを選ばれたカードの上に置くという手法としては、それで何の問題もありませんし、スムーズにできます。しかしながらそのようにコインをはさんでから、前述のようにグリンプスしたのでは、コインを使わずに、相手のカードの上にブレークを作り、ブレークを利用してグリンプスするのと、観客からの見かけはほとんど違いがありません。

いくら考えても、コインを密かにはさむことから、有効な効果を生み出せるアイデアは思いつきませんでした。そこで私は、"密かにはさむのがだめなら、密かにではなく、堂々とはさむのはどうだろう"と考えました。そうです。コインをマジックに使用する物として観客に見せて使ったらどうか、と考えたのです。するとまたしても道具が教えてくれました。

たまたまそのとき使っていたカナダの5セントコインに、エリザベス女王の肖像が刻まれていたのです。「そうだ、女王にカードの表面を見せて、女王にそのカードを告げさせるという、'ウィスパリングクイーン'として演じればよいのだ」と、思いついたのです。そしてつぎのようなカードトリックができました。

クイーンは語る
= 加藤英夫、2015年2月15日 =

方 法

カナダの5セントコインのように、クイーンもしくは他の肖像の刻まれたコインを2枚使います。1枚は左手にパームしておき、もう1枚はテーブルに置いておきます。

相手にシャフルさせたデックを受け取り、あなたの前に置きます。右手でデックをつかみ、テーブルの上にゆっくりドリブルオフして落とし、「このようにゆっくりカードを落としていきますので、好きなところでストップをかけてください」と言います。

デックをつかみ直し、ゆっくりドリブルオフして、ストップがかかったら止めます。右手の上半分のフェースを相手に向けて、「このカードをおぼえてください」と言います。左手でテーブル上のコインを指先に取り、右手のパケットをテーブルのパケットの上空5, 6cmに位置させ、「このコインにも選ばれたカードを見てもらいます」と言って、左手のコインを上と下のパケットの間に入れますが、すぐそのコインは下のパケットの中央に置き、しばらくしたらパームしている方のコインを指先に持って、パケットの間から外に出します。そして右手のカードをドリブルオフしてテーブルのパケットの上に落とします。

以上の動作は、あくまでも左手指先に持っていたコインをパケットの間に入れ、選ばれたカードを見せ、そして外に出したように見せかけるのです。いまや選ばれたカードの下にはコインがはさまっています。

左手のコインを相手に渡し、「そのコインにはエリザベス女王の肖像が刻まれています。ですからいま、あなたが選んだカードを女王に見せたのです」と言いますが、そのセリフを言っている間にテーブルのカードをそろえて取り上げ、左手に持ちます。

右手に相手からコインを受け取るべく、右手を相手の方に伸ばしますが、そのとき左手はデックの裏面が右に向くようにします。「女王が見たカードを教えてもらいます」と言って、コインを右耳に近づけて、話を聞く真似の演技として、顔を左下に傾けてデックの方に向けます。そして選ばれたカードをグリンプスします。

選ばれたカードがわかりましたから、それをドラマチックに当てます。


ということで、トリックとしてまとまりました。しかしコインがデックの中に残っています。密かに抜き取ることは難しくありません。しかし、はさんだコインをさらに生かすことはできないでしょうか。

私の眠れない夜の思考はまだ続きます。