= 加藤英夫のカードマジック研究報告 =

No.317

2015年5月22日

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不思議だけど面白くない

妻の言った言葉の中で、もっとも蘊蓄のあるものが、「不思議だけど面白くない」というものでした。「不思議ならいいじゃないか」とか、「不思議なら面白いはずだ」とか、「マジックの面白さは不思議さなのだ」とか、マジシャンとしたら言いたくなります。

しかし50種類ものパケットトリックを見せて、何回かこの言葉を言われてみると、どのようなものに対して彼女がそのようなことを言うかわかってきて、「なるほど」と気づかされたことがあったのです。

彼女がそのようなことを言う顕著なタイプは、現象がフラットなもの、すなわち同じ現象が同じ起こり方で繰り返されるものでした。

たとえば、相手がシャフルした8枚のカードを背後に運び、「上のカードから順番に当てていきます」と言って、1枚のカードを告げてから1枚のカードを前に出すと、当たっています。続けてカードの名前を言ってから、つぎのカードを出すと当っています。これを最後まで繰り返します。

マジシャンが見ても、このトリックの原理はまず見破れないでしょう。ですから当てものではありますが、強烈な不思議さを生み出すものだと思っていたのです。しかし妻にしてみれば、どのような原理で当てようとも、よほど当て方が奇抜でないと、どれも同じように感じてしまうのでしょう。それを8枚も繰り返すのですから、退屈なトリックだと感じるのだと思います。このトリックはパケットトリックプロジェクトから脱落いたしました。

妻が面白いと感じなかったトリックのもうひとつのタイプは、現象をストレートに見せるものでした。たとえば、"Card Magic Library"第9巻、72ページに'整列'というトリックがあります。そのトリックは、じつはパケットトリックプロジェクトにはリストされていませんでした。優れたトリックなのですが、候補をリストアップするときに見落としていました。

先日の'石田天海フォーラム'の打ち上げ懇親会において、二川滋夫さんが、「加藤さん、加藤さんの'整列'という作品をおぼえていますか」と言いました。私はおぼえていませんでした。すると二川さんは演じてくれました。我ながら素晴らしい作品だと感じました。つぎのような現象です。

13枚のカードを裏向きに3つのパイルにディールします。1枚のカードを手に持ちます。相手に好きなパイルを指ささせ、そのパイルのトップカードを取って、手に持っているカードの下に入れてそろえます。つぎつぎと相手に指ささせ、相手の指さした順でカードを取り、左手のカードの下に入れていきます。集まった13枚を表向きにスプレッドすると、AからKまできれいに順番に並んでいます。

マジシャンなら十分驚き、面白いと思ってくれるはずです。しかし私の妻はそうではありませんでした。二川さんから見せられて、このトリックをプロジェクトに含めるべく、妻にやって見せたのですが、「不思議だけど面白くないわ」とは言いませんでしたが、そのように言いたそうな表情をしていました。

現象の味つけ

妻の顔つきを見て、即座にこのトリックの改良法を思いつきました。ここまで色々と妻に見せてきて、どのようなものが妻が面白いと感じ、どのようなものが面白いと感じないか薄々わかってきていたからです。私の妻は、演出のないストレートなトリックを面白いと感じない傾向にあったのです。

ただし、演出のないストレートなトリックと言っても、そのストレートさにすごさがあれば別です。たとえば上記のような整列現象でも、順番が混ざっているカードを表向きに広げて見せて、魔法をかけてからすぐ広げ直すと整列している、というようにできるとしたら、妻も面白がるかもしれません。

すなわち、相手に指ささせてカードを集めるという長いプロセスのあとにカードが整列する、しかも整列するということに何の演出もないもの、そのようなものを妻は面白いと思わないのです。

そのようなトリックを面白くする方法があります。それは行うプロセスに適切なたとえ話を加えることです。しばらくして、つぎのようなトリックが誕生しました。現象だけ説明いたします。

ウィルス駆除システム
= 加藤英夫、2015年4月20日 =

「これからお見せするのは、コンピューターのメモリーに侵入したウィルスを、コンピューターが自動的に駆除するシステムの話です。これはコンピューターのメモリーです」と言って、13枚のカードを裏向きにリボンスプレッドします。「これがウィルスです」と言って、ジョーカーを見せて表向きに相手に渡します。

「ウィルスがコンピューターのメモリーに侵入します。どれか好きなカードを抜いて、抜いた位置にジョーカーを表向きに入れてください」と言います。相手が抜いたカードを指さして、「これはウィルスに冒されたメモリーです」と言います。そのカードは裏向きのままわきに置いておきます。

スプレッドを閉じて取り上げ、3つのパイルにディールします。途中で表向きのジョーカーもどれかの組に置かれることになります。最後の1枚を手に持ち、'整列'と同じやり方でカードを集めます。

それからカードをリボンスプレッドします。「これでジョーカーが何番目のメモリーを侵したかわかります」と言って、トップ側から声を出して数えていき、「ほら、7番目にジョーカーがあります。ですから侵されたのは7のメモリーです」と言って、わきに抜き出してあるカードを表向きにします。それは7のカードです。

ジョーカーを抜いて、その位置に抜き出してあったカードを裏向きに入れます。「システムはウィルスを駆除したのでメモリーは元通りになりました」と言って、カードを表向きにスプレッドします。AからKまで順番にそろっています。


ということで、このトリックはパケットトリックプロジェクトに加わることになりました。二川さん有り難うございました。もちろん、私の妻にも感謝しなくてはなりません。

マジックの面白さは、現象のみにあるのではなく、その現象の起こり方、起承転結、そしてそれを相手の知性にうまく受け止めてもらえるような演出を添えて表現する、ということによって実現するものである。

ということをはっきりと再確認できました。