= 加藤英夫のカードマジック研究報告 =

No.319

2015年6月5日

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Card Magic Video Lesson 第36回

マジックカフェで、トランスポジショントリックを考案し、そのデモ動画を紹介した人がいました。あまりにも複雑なことをやっているので、多くのメンバーが、カードのハンドリングはうまいが、何をやっているのかわからないという意見を述べました。見てもしょうがないので、その動画は紹介いたしません。

その動画を見たアレックス・ホイが、ハリー・ローレインの作品、ワンアイドジャックサンドイッチをもとにした作品のビデオを紹介し、「このようにやった方が現象がはっきりするだろう」と述べました。それがつぎの動画です。

0186 http://www.youtube.com/watch?v=L4lOwzw2W4I

これを見て、これで本当に現象がわかりやすくなっているのだろうか。と思いました。そこで念のため、ローレインのデモを見ておくことにいたしました。つぎの映像です。

0187 http://www.youtube.com/watch?v=5oEOLKS2aDo

これは0186のように、2枚のカードが入れかわるトランスポジション現象ではなく、最初にサンドイッチしておいたカードが選ばれたカードになっているという、変化現象です。これならまだ、ハンドリングがそれほど複雑ではないですし、現象もたんなる2枚のカードの交換ではなく、それなりの味のあるものですので、存在価値があると思います。

しかしながら、デックの中で現象を起こすという様式そのものが、現象を曖昧にしているのではないかと思い始めました。少なくとも一方のカードはデックの中ではなく、たとえばテーブルに置かれていて、他方はデックの中にあるというように、明確に2枚がアイソレート(隔離)された状態にあることが望ましいと思います。

はてさて、どのような手法で演じたとしても、2枚のカードがただ入れかわるという現象は、無味乾燥なものです。それは古今東西、多くのトランスポジショントリックについて言えることです。テーブルの上のカードとデックの中のカードが交換する、というようなことを何気なく書いたことから端を発して、つぎのようなささやかなトリックを思いつきました。

脱獄王
= 加藤英夫、2012年2月1日 =

選ばれたカードをクリンプします。選ばれたカードが脱獄王であり、デックが牢獄であり、脱獄王が牢のどの部屋に閉じ込められているか秘密にするためと言って、デックを相手にシャフルさせます。デックを受け取り、クリンプカードをトップに運びます。

脱獄王は密かに身代わりを用意したと言って、ダブルターンオーバーして、そのカードが身代わりだと言います。ダブルを裏向きに戻し、上の1枚をテーブルに置きます。

リフルパスもしくはターンオーバーパスを行い、デックを表向きに広げ、テーブルに置いたはずのカードがデック中央にあることを見せます。選ばれたカードが何であるかを名乗らせてから、テーブル上のカードを表返し、「みごと脱獄に成功しました」と言って終わります。


巧妙性もなく、私はこれを新しい作品として記録したくて書いたわけではありません。トランスポジションにおける、カードの位置についての考え方をお話したかったのです。とは言うものの、交換現象をデックの中と外で行うという発想が、脱獄という演出とうまくマリアージュしたのではないかと思います。

マジックはやり方が面白ければ価値があるのではなく、観客から見た現象が面白いかどうかにかかっているのです。

さらにもうひとつ、このトリックにおいては、従来からトランスポジショントリックにおいて、ひとつの問題点であったことを解決するアイデアが含まれています。それがなんであるか、おわかりになるでしょうか。私にとっては貴重な発見でした。ヒントの代わりに謎かけを書いておきます。

AをXにすり替え、BをAにすり替えたら、XをBにすり替える必要がある。すり替えにダブルリフトを使うとすると、3回のダブルリフトが必要になる。

このトリックでは、ダブルリフトが1回だけしか行われていません。それでも2枚のカードの交換現象が成立しています。