= 加藤英夫のカードマジック研究報告 =

No.333

2015年9月11日

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"Tenyo-ism"の重たさ

9月6日は素晴らしい1日でした。テンヨーマジックフェスティバルでは、韓国のLUKASの魔法のようなマジックに酔いしれました。そしてフェスティバルが終わったあと、私は会場の片隅にいたリチャード・カウフマン氏に呼ばれ、「加藤さん、このカバンを持ってみてください」と言われました。機内持ち込みができるサイズのカバンにしては、けっこう重く、カウフマン氏は中身だけで9kgあると言いました。

カバンを開けて見せてくれたとき、びっくり仰天。完成したばかりの"Tenyo-ism"の第1巻と第2巻それぞれ1冊ずつしか入っていないのです。

しかもページを開いたときにさらに驚きました。大判の全フルカラー、2巻合計1400ページ、しかも厚い極上質の紙を使用しています。その中に自分の肖像画を見たとき、身の引き締まる思いがしました。テンヨーでやってきたことの蓄積を、このような形で残してもらえるとは。

第1巻と第2巻には、(株)テンヨーが創設以来売り出した全製品の写真つき紹介、そしてその内の多くのトリックの演じ方のバリエーションが解説されています。私たち元テンヨー社員の誰もが、カウフマン氏が掲載した以外の商品があったことを指摘できないほど、カウフマン氏は完璧にテンヨー商品をトレースしたのです。

それはテンヨー関係者のみならず、フェイスブックなどを使用しての全世界のテンヨーファンに協力を得て、商品の写真、情報、演じ方のバリエーションを集めたということだそうです。

"Tenyo-ism"にテンヨーのトップデモンストレーターとして紹介されている清水一正さんの話によると、カウフマン氏が彼の家に行ってインタビューしたとき、引き出しから道具を取り出して演じる清水さんに対して、「あちらの引き出しには何が入っているんだ。あの箱には中に入っているのか」と、清水さんのレパートリーをほとんどすべてやらされたということです。

私もカウフマン氏とメールでやり取りして、私が知っていることをほとんど引き出されました。それだけでなく、私がまったく記憶していない私のトリックについても、どこからか見つけてきて、それについて私にたずねてきました。

そのような話は、今回の同書に登場するテンヨーのクリエーターの皆さんも、カウフマン氏と同様にやり取りしていたとのことを聞きました。カウフマン氏の本を作るときの情熱、執念、実行力には脱帽いたしました。

また同書の発行にあたっては、元テンヨー開発部の近藤博氏と下村知行氏が校正を担当され、日本語資料の収集および英訳の担当として、角矢幸繁氏がたいへんな活躍をされました。

同書には、DVDが4枚同梱されていて、そのうちの2枚はテンヨーのオフィシャルサイトからの商品実演動画、1枚はクリエーターインタビューしたときの未発表作品などの実演動画、そして4枚目はダイ・バーノンが1969年に来日して、レクチャーをやったときのビデオだそうです。

そのようにして完成した同書は、10月中ごろに発送開始することが決定しています。これ以上は遅れることはないとのことです。

注文先は以下のアドレスです。
http://geniimagazine.com/kaufman/store/html/92.html

テンヨーマジックフェスティバルが終わったあと、日本橋の料理屋で"Tenyo-ism"完成食事会をやりました。まるでテンヨークリエーター同窓会のような楽しい宴となりましたが、最後に菅原茂氏がカウフマン氏に質問しました。「どうしてカウフマンさんはこの本を書こうと思ったのですか」と。

カウフマン氏は、「テンヨーのやってきたことを書き残せるのは自分しかいないと思った」と答えられ、「山田氏の病気が悪化していたので、急いでやらなくてはならない」とも思ったそうです。テンヨー創設者の山田昭氏は、カウフマン氏のインタビューを受けて3ヶ月後に亡くなられました。

カウフマン氏の仕事も偉大でありますが、カウフマン氏にこの本を書かせようと決意させた、山田昭氏がやられてきたことは偉大であります。それは"Tenyo-ism"を読んでいただれば、納得していただけるはずです。

左より、リチャード・カウフマン、近藤博、吉沢卓弥、加藤英夫、菅原茂、下村知行、角矢幸繁、清水一正、Tenyo-ism (敬称略)。

その夜のカウフマン氏の最後の挨拶は心にしみるものでした。「私はテンヨーのトリックについて書くだけでなく、テンヨーがどのようにして発展してきたか、それを支えたクリエーターの皆さんの生き様というものをも書き残したかったのです」。

マジックを仕事にしてよかったと思った1日でありました。