= 加藤英夫のカードマジック研究報告 =

No.343

2015年11月20日

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アンコールでピアノトリックを演じた日

それは東京アマチュアマジシャンズクラブでレクチャーをさせていただいたときのことでした。レクチャーで'ピアノトリック'の私のバージョンを演じたのですが、いちばん受けたのがそれだったようです。アンコールとしてそれをリクエストされたぐらいです。たしかにそのやり方は、マジシャンには古典的な原案よりも不思議に見えるやり方でした。

'ピアノトリック'について、"カーディシャンズ物語"(2007年)に書かれていることを引用いたします。

‘ピアノトリック’は、偽りの情報を真実と思わしてしまうという、心理的錯覚によるカードマジックの傑作です。この心理トリックの歴史にも変遷がありました。

“アートオブマジック”(1909年)では、ピアノトリックは1900年前後に活躍した、イムロ・フォックスがよく演じていたが、考案者は不明だとしています。同書に解説されたフォックスのやり方は、面白いことにカードを飛行させる方向が、現在の一般的な方法とは逆向きです。つぎのように行います。

客の両手をピアノを弾くときのかっこうで、テーブルに置かせます。「2枚は偶数です。指の間に2枚ずつはさんでいきます」と言って、客の指の間に2枚ずつのカードをはさんでいき、最後に右手の薬指と小指の間だけ、1枚はさみます。「1枚のカードは奇数です」と言います。


左手の小指の方から2枚取り、「偶数です」と言って、2枚を左右に分けてテーブルに置きます。つぎつぎと2枚ずつ取って、「偶数です」と言いながら、先に置いた左右のカードの上に分けて置いていきます。最後の1枚を取り、「この1枚を偶数のカードに加えると、合計は奇数になります。どちらに加えますか」と、指示された方に1枚のカードをのせて、その組を相手に持たせ、自分は残りの組を持ちます。

「1枚のカードをそちらに飛行させます。こちらは偶数でしたね」と言って、カードを相手の方に投げる真似をします。そしてあなたの持っているカードを数えます。7枚です。それから相手にカードを数えさせます。8枚になっています。


現在一般的に行われているのは、“スカーニオンカードトリックス”(1950年刊)に書かれた方法です。ダウンズのやり方とは逆に、1枚のカードを加えた奇数と思われているパケットから、偶数と思われているパケットにカードを飛行させます。

この方法だと、カードが到着した方のパケットが枚数が少ないという矛盾が生じますが、それでも現象は優れています。アートオブマジック”に書かれた方法では、偶数から1枚減ったから奇数になったと、頭で考える必要があるのに対して、スカーニの解説した方法では、1枚のカードが飛行したというイメージを明確に与えられるからです。

雑誌“イビデム”1954年3月号では、ダブルリフトを使い、いかにも最初に見せておいたカードが、一方から他方へ本当に移ったように見せる方法が、マーチン・ガードナーによって書かれたました。しかしこれは、原案より優れているとは言えません。ピアノトリックの良さは、特定のカードが飛行することではないのです。

ピアノトリックの現代的な見せ方では、いかにしてマジシャンがカードに触らずに演じるか、というのがポイントになっています。

その後の調査によって、"アートオブマジック"より以前に'ピアノトリック'の解説が存在していました。雑誌"スタニオンマジック"、1902年8月号に解説されています。その中では1枚のカードを飛行させることについて、相手に奇数枚と思われているパケットを持たせ、そのパケットから余分な1枚を消してしまう、と記述しています。したがって、イムロ・フォックスとは違い、現代と同じやり方をしていたことになります。


もしも'ピアノトリック'を演じて見せたことがない人がいたら、この機会にぜひトライしてみてください。強力なトリックであることがわかるはずです。このトリックにこそ、マジックの基本的なパワーが秘められているのです。

それは、当たり前のことをやっているのに、相手が勘違いを起こすことによって不思議さが生まれる、という原理です。逆に言えば、このトリックはそのような心理的な原理によるものですから、マジシャンの演技力によっては、結果が大きく違ってくるでしょう。