= 加藤英夫のカードマジック研究報告 =

No.351

2016年1月15日

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ボウラー仲間に正月にしかできないマジック

昨年の暮れにボウリング仲間と忘年会をやったという話をしましたが、それはNBFというボウリング組織のシチズンボウル支部の忘年会でありました。こんどは新宿区と中野区のボウリング場のNBF支部合同の新年会があり、そこでもマジックをやらせていただきました。

2種類のカードマジックを演じましたが、先に演じた'インビジブルデック'のことは次週お話することにして、二番目に演じた'パーフェクトチャレンジ'という、ボウリングをやる人にしか通用しないマジックのことを書いておきます。現象だけの説明です。

パーフェクトチャレンジ
= 加藤英夫、2016年1月7日 =

「1フレームから9フレームまでストライクが続いたとします。いよいよテンフレです。はたしてパーフェクトが達成できるかどうか、この3枚のカードを使って見てみることにします」と言って、表面にボウリングのピンが10本並んだ絵の描かれたジャンボカードを3枚見せます。

そのうちの1枚に対して、一人の人にボールを投げる真似をしてもらいます。2、3秒の間をおいて、そのカードを表向きに返します。そのとき「バシッ」と声を発します。そのカードがブランクカードになっています。「ストライク! ピンが全部飛んで消えてしまいました」と言います。2枚目についても同様です。

「いよいよ最後の投球です」と言ってから、3枚目はスローモーションで投げる真似をしてもらい、「投げられたボールは10番スパットを通り、ブレーキングポイントで大きく曲がり、ポケットをヒットしました。バシッ!」と言って、カードを表向きします。「残念、テンピンが残りました」と言います。1本だけピンが描かれています。「テンピンだけではありません。セブンピンも残っています」と、手で持っている部分をどけると、セブンピンも描かれています。

「というわけでパーフェクトはなりませんでしたが、セブンピンとテンピン残りは、両端にピンが立っていますので、"門松"とも呼ばれています。今日は新年会ですから、門松が立ちまして、お目でとうございます。今年もよろしくお願いします」と言って終わります。


ボウラー仲間に対して、しかも正月にしか演じられないマジックを皆さんに解説してもしかたありませんが、マジックを演ずるときにとても重要なことをお伝えしたいと思いました。それは、見ていただく観客、見せるときの状況に合わせたマジックを演ずるということについてです。

誕生日や結婚式で演ずるなら、それなりのメッセージを現したり、ふさわしいアイテムを使って演じることもよいでしょう。初対面の人に見せるときは、たとえばテンヨーの'アラビアンカード'のトリックを応用して、3枚のカードからまん中の1枚を抜かせて、それが名刺に変化しているというやり方は、初対面の人に自分を印象づけるのに適しています。

もちろん、どのような状況でもそのような適切なマジックができるわけではありません。マジックそのものではなく、マジックを演ずるときのセリフでもアジャストすることができる場合もあります。たいていの場合、マジックを演ずる最初のセリフで、その場にあった始め方というのも考えられます。

たとえば先週お話しした忘年会で'サムウェアビロング'を演じたときは、つぎのような始め方をしました。

ある人にあらかじめ、唐突に「加藤さん、今日は何かマジックやってもらえませんか」と問いかけるようにお願いしておきました。「今日は何も持ってきていませんよ。もしかして誰かカードを持ってる人いますか。いませんよね」と言いながら、私は両手でポケットを探ります。そして「あっ、たまたまカードがありましたよ」と言って、ケース入りデックを取り出します。「それじゃひとつやらせていただきます」と言って、'サムウェアビロング'を演じました。

このようなイントロがあってマジックを始めるのと、ただ「マジックをやらせていただきます」と言って始めるのとでは、観客の注目度の度合いが違ってくると思います。観客がマジックを見ようとする心のセットアップをするのにも役立つのではないでしょうか。

どんなマジックを演ずるか、どのように演ずるか、どのように始めるか、なぜマジックを演ずるか、などなど、マジックを人に見せるときには、色々と考えるべきことがあるのです。そう考えるとパフォーマーとしてのマジシャンは、同じ物でもより多く売ることができる優秀なセールスマンと同じように、あらゆる手練手管を使って最大の結果を引き出すというのが仕事であるのだと思います。

それは"ただ人を驚かせればよい"という次元とは、はるかに隔たりのある境地であると言えるかもしれません。

今回の新年会でマジックを演じたことによって、私にとって最大の報酬を受け取ることができました。マジックが終わったあと、何人かの方が私の席までやってきて、「素晴らしかった」と言ってくれたのみならず、「カードマジックでお仕事をされているのって、どのようなことですか」とか、「私もカードマジックがやりたくなりました」とか、色々と会話がはずみました。

そして会が終わって帰るときにも、「今日は本当に楽しかったです」というような言葉を何人かの方からいただきました。いままで一緒にボウリングはやったけれど、会話したことのなかった方々と親しくなれたこと、これが最大の報酬なのでした。