= 加藤英夫のカードマジック研究報告 =

No.352

2016年1月22日

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状態を明確に伝えること

新年会で演じた'インビジブルデック'の話です。私のみならず、世界中の多くのマジシャンが'インビジブルデック'は最強のカードマジックだと言っています。少なくともスタンドアップで演じるカードマジックとしては、これを超えるカードマジックを私は思いつきません。

私はことあるたびに'インビジブルデック'を演じてきました。いつもすごい反響を得ていますから、もう私の演じ方は完成の域に達していると思っていました。しかし今年の新年会で演じるにあたって、もっと強化できる点はないかと考えて、小さなことですが重要なことを思いつきました。

通常の演じ方では、客に透明なデックから1枚のカードを取らせ、それを他のカードとは逆向きに入れる真似をさせて、それを見えないケースにしまい、ポケットに入れてからまた出すとか、何らかの方法で見えない状態にします。見えるようになったケースからデックを取り出すまえに、「ところであなたが選んだカードは何でしたか」とたずねます。そしてデックを広げて。表向きの中に裏向きの1枚があるのを見せます。そしてそれを抜き出して、相手が言ったカードであるのを見せます。

私の今回の演じ方の違いは、たんに選ばれたカードが何であるかたずねるタイミングの違いだけですから、私のバージョンとして記録に残すのもどうかと思いますが、それだけの価値があると思うので書かせていただきます。

インビジブルデック・加藤版
= 加藤英夫、2016年1月8日 =

見えないデックを見えないケースから取り出して、自分でシャフルする真似をしたり、相手に渡してシャフルする真似をさせて、「1枚落ちましたよ」と言って、相手に拾わせるなど、通常の演じ方と同様に進めます。

デックを受け取り、両手に広げますが、そのとき「このようにカードを裏向きに広げます」というのを忘れないでください。なるべくカードがどのような状態になるかを暗示することが、'インビジブルデック'では大切なのです。

相手に1枚のカードを抜く真似をさせ、「そのカードをのぞいて表を見てください」と言います。相手が見る真似をしたら、「本当にそのカードを見たつもりになって、私の質問に答えてください。マークにはダイヤ、クラブ、ハート、スペードがありますが、そのカードのマークは何ですか」と問いかけます。相手がマークを答えます。

「数はAからKまでありますが、そのカードの数は何ですか」と問いかけます。相手が数を答えます。そうしたら、「ということは、そのカードはハートの8ですね」と、相手の言ったマークと数を復唱します。

マークと数を別々にたずねるのは、選択の余地が広いということを暗示することと、相手が自由に選択したことを印象づけるためです。

「ではそのハートの8をこちらに返してもらいますが、こちらのカードは裏向きです。そちらのカードを表向きに返して適当なところにさし込んでください」と言って、カードを返す真似をさせます。

「いま、自由に選んでいただいたハートの8が、他のカードとは逆向きに入っています。いまからカードが見えるようにしますが、いったんケースの中にしまいます」と言います。私はここで、「ケースをどごに置きましたっけ」と言って、ケースを探す真似をします。

ケースに入れたあと、左のズボンのポケットにケースを入れる真似をします。「ちょっと触って見てください」と言って、相手にポケットのあたりを触らせます。女性に手伝ってもらっている場合は、ここでそれなりのジョークの仕草を見せます。「もう見えるようになっているはずです」と言って、見えるデックを取り出します。

デックをケースから取り出し、「表向きに広げると、1枚のカードが裏向きになっているはずです」と言って、表を観客に向けて広げていき、相手が言ったカードを裏向きに現します。

なお私は、体を左に向けて、自分と観客が同時に選ばれたカードの裏が見えるような広げ方をします。よく体の正面で広げて、自分は客の言ったカードの表面を見て、そのカードを現すというやり方がよい、という人がいますが、私はそうは思いません。「ほら、裏向きのカードがありました」というセリフをいうとき、マジシャンと観客が同じ側から見ていることが重要なのです。

裏向きのカードをアップジョグした状態でカードをそろえ、ここで体を正面に向けて、アップジョグしたカードを抜き出します。「これがハートの8だったらすごいことが起こったことになります。驚く準備をしてください。はい、ハートの8です」と言って、そのカードの表を観客に向けます。


相手がカードを抜く真似をしたあと、その時点でそのカードが何であるかを言わせた方が、そのカードが何であるか不明なまま進めるよりも、観客のイメージの中でそのあとのプロセスが明確にとらえやすいのです。

見えないカードを扱うという、観客にとっては見たことのないプロセスを見せられるのですから、最後にデックが広げられる寸前まで、カードが何であるか知らないで見ているよりも、カードが何であるか知っていて見た方が、状態をはっきり把握できるわけです。

マジックの演技で望ましくないケースとして、状態をはっきり観客にわからせていないということが多くあります。状態をはっきりわからせる工夫をするだけで、不思議さがパワーアップするということは、アスカニオにしろオルティーズにしろ、演技の理論書には書かれていることです。

かくして私の'インビジブルデック'は、パワーアップしたのでした。