カードマジック研究室

No. 004

2016年8月12日




トリックの構造・演技の構造

"Card Magic Library"第5巻に、レオ・ホロヴィッツの'トウェンティファイブカードトリック'が解説されています。それを再読して、トリックの方法の解説のあとに、カード当てをサイキックに演じることについて、たいへん重要なことが書かれていることに目が止まりました。そのトリックの現象はつぎの通りです。

デックから5人の客に5枚ずつカードを渡し、それぞれの客に、5枚のカードを見渡して、1枚のカードをおぼえさせます。それから5つのパケットを受け取り、集まった25枚を一人の客によくシャフルさせます。

それからまたトップから5枚取り、それらの表を5人の客に見せて、ある客がその中に彼の思ったカードがあると言ったら、マジシャンは5枚を背後に運び、1枚のカードを右手に、他のカードを左手に持って前に出します。その客に思ったカードを名乗らせてから、右手のカードを見せると、その客が思ったカードです。そのあとも5枚ずつ見せていき、同様にして5人の客が思ったカードを当てます。


方法の解説のあと、備考において私はつぎのように書いています。

ホロヴィッツは5枚のカードを見せるとき、サイキック的な演技を行っています。相手が思っているカードを察知して、それによって当てるという演出です。しかしサイキック的に当てるというのに、背後にカードを運んで抜き出す、というのはつじつまが合いません。思っているカードをテレパシーで受け取ったならば、5枚の表を自分に向けて広げ、その中から相手の思っているカードを抜き出した方が、思っているカードを当てるには適切です。

この文章に書かれていることをもう少し詳しく書くとつぎのようなことです。

ある客に5枚のカードを見せて、その中にその客のカードがあると言ったら、そのカードをじっと見つめさせます。マジシャンは客が見つめているイメージを受け止めて当てるのだと説明します。ですから、客が見つめているとき、マジシャンも表情を静止させています。そして「わかりました」と言って、カードの表を自分に向けて、相手のカードを抜き出します。そしてその客のカードを名乗らせてから、そのカードの表を見せて、当たっていることを示します。

サイキックに当てるという演出だけでなく、ホロヴィッツの解説のやり方には、ドラマチック性を最大限発揮していない、もうひとつの考慮すべき点があります。それは背後で1枚のカードを右手に持ち、前に出し、客の思ったカードを名乗らせてから、右手のカードを見せている点です。

そのようにするということは、2人目の客についてもそのように行うということです。そのようなやり方を5人に行うということは、同じ不思議さを順次見せていくということになり、インパクトが強いものになりません。つぎのようなやり方の方がインパクトがあると思います。

あるパケットの中にある客のカードがあると言ったら、その5枚を見せて、客のカードを見つめさせます。そうしたら「わかりました」と言って、その5枚の表を自分に向けて、その客が思ったカードを抜き出して、裏向きにその客の前に置きます。他の客のカードについても同様にやって、5枚から1枚を抜いて、客の前に裏向きに置いていきます。

そのようにして、5枚のカードを裏向きにそれぞれの客の前に置いたあと、端の客から順番に思ったカードを名乗らせてから、客の前のカードを表向きに返し、当たっているのを見せます。他の客のカードについても同様にやります。


このようにした方が、当てる部分に時間がかかりません。原案のままだと、あるパケットの中にある客のカードがあると言ったら、そのパケットを背後に運び、客のカードを右手に持って出し、客のカードを名乗らせてから、右手のカードの表を見せる、という操作を5回繰り返すわけです。

しかしながら、5枚のカードを抜き出して裏向きに置いたあと、それぞれの客のカードを名乗らせてから、そのカードを表向きに返していくというやり方にしても、インパクトが最大限発揮されていません。私が最終的に考えたのは、つぎのようなやり方です。

5枚裏向きに抜き出して置いたあと、1人目のカードを名乗らせてから、そのカードを表向きにして当てます。2人目のカードもそのように当てます。そして3人目、4人目、5人目に対しては、「あなたのカードは何でしたか。ダイヤのKですか。あなたのカードは何でしたか。クラブの2ですか。そしてあなたのカードは、ハートの10ですね」と言ってから、3人目のカードを表向きに返しながら、「はいダイヤのK」です」と言い、4人目のカードを表向きに返しながら、「はいクラブの2です」と言い、5人目のカードを表向きに返しながら、「はいハートの10です。全部当たりました」と言って、それなりのポーズをとって終わります。

この見せ方では、いわゆる'たたみかけ'のインパクトの強め方を取り入れています。

優れたマジックというものは、トリックの構造が優れているだけでなく、見せ方の構造も優れたものでなければなりません。同じトリックでも、たとえばフレッド・キャップスや天海が演じると違ったものになる、ということはそのようなことに理由があるのではないでしょうか。

今日書いたことには、"ただし"ということを付け加える必要があります。"ただし、今日書いたことは、私が頭の中で考えただけのことです"と。

最後に書いたのが本当にベストなやり方であると確信を持って書いたわけではありません。以上のような色々なことを考えて、観客に対してやり比べたあとに、確信というものが得られるものなのです。