カードマジック研究室

No. 045

2017年5月19日



ときにはあきらめないことも

澤さんに見せてしまったひどいトリックを、まだ私は捨て切れずに、「何とか生き残れるようにできないか」という未練を持ち続けていました。

澤さんがあのとき見せてくれたのは、いわゆる"伊東家の食卓"系のトリックで、「13という数は不思議な数なんです」というセリフでスタートして、最終的に4枚のKが現れる、という現象でした。

澤さんは私のひどいトリックを見たとき、「それは全然面白くないですね」と言ったあと、「13は不思議な数だと言って始めるから、そのあと起こることが面白く見えるのですよ」と言われました。

その言葉を思い出したら、私がひどいトリックを演じたときに、それがひどい理由の半分以上は、私がそのときしゃべったセリフに起因していたのではないかと気づきました。

皆さん、ここでマジックを演ずるときの、ひとつの注意点を見つけました。演出とかセリフというものがマジックの現象に味わいをつける'衣'であるとしたら、"衣の方が本体よりも重くなってはいけない"ということです。

あの日の私の演出としてのしゃべりは、"全国宅配システム"というタイトルで、「北の都市と南の都市からの配送品を届けるには、いちど中央の集配センターに配送品を集めて、、、」というように、いま思い出してもうんざりするようなものでした。私が演技の途中で手が止まり、「なぜかこのトリックはよくない気がしてしまいました」と言ったのは、その演出そのものの理屈っぽさが理由だったのです。少なくとも50%以上は。

とりあえずそのように決めつけて、私はひどいトリックの再生に取りかかりました。異なる演出を考えるのではなく、演出をつけないことによって、現象の面白さが表現できるかもしれない、と思ったのです。そしてつぎのようにやることにしました。

シンパセティックディール
= 加藤英夫、2017年5月15日 =

準 備

トップから1枚目〜4枚目に4枚のK、トップから27枚目〜30枚目に4枚のQをセットしておきます。そして上半分にも下半分にも、必ず4、5、6、7のカードがあるようにしておきます。

方 法

デックを表向きにリボンスプレッドして、「カードはよく混ざっています」と言います。トップと中央にKとQが固まっていますが、そのように言い切ってしまいます。スプレッドを閉じます。

「4から7までの数のカードを使います」と言って、相手にカードの表が見えない程度に表をこちらに向けて広げていき、中央より手前で4から7までの数を1枚ずつ抜いて、表向きに相手の近くに置いていきます。そのあと4枚のQより左で分けて、右手のカードをそろえて裏向きにして、「半分あなたが持っていてください」と言って、右手のカードを相手に渡します。

残りのカードを広げていき、4から7までの数のカードを抜き出して、表向きにあなたの近くに置いていきます。そのあとカードをそろえ、裏向きに持ちます。

「いまからあなたと私が同じようなことをやりますが、同じようなことをやると、不思議なことに、同じようなことが起こるのです。まずステップ1は、先にあなたにやってもらいます。そちらの4枚のカードを横一列に並べてください。数の順番はあなたの好きなように決めてください」と説明して、4〜7のカードを好きな順に並べてもらいます。左から6、4、7、5と並べたとします。

相手から見て左端の6を指さして、「最初のカードは6ですから、6枚のカードをこのように1、2、3、4、5、6と置いてください」と言いますが、左端のカードの手前から、右の方に向かって置く位置を指さして言います。5枚目は左端のカードの手前に戻って指さすのです。

そのあと、Cardician's Journal Special"Vol.1の、'合コントリック'と同じように相手にやってもらいます。その結果、相手の4つのパイルは、左から7枚、6枚、5枚、4枚となります。

「そうしたら、4組を好きな順番で重ねてください」と言って、相手が重ねた順番を記憶します。たとえば上から5枚、4枚、6枚、7枚の順で重ねられたとします。"5467"と記憶するのです。

「つぎは私がやります。まず数のカードを適当な順に並べます」と言って、左から"5467"の順、すなわち相手がパイルを重ねた順と同じ順に並べるのです。そしてその順にしたがって、'合コントリック'と同じディールのやり方をやります。

そしてディールした4組を重ねて集めるのですが、それは相手の数のカードの並び方と同じ順で重ねます。上の例では、6、4、7、5と並んでいますから、上から6枚、4枚、7枚、5枚のパイルの順で重ねます。

「ここであなたのカードと私のカードを交換します」と言って、パケットを交換します。

「ステップ2は私が先にやります。置いてあるカードの数だけカードを置くのです」と言って、あなたの前に並んでいる数のカードの左端のカードから右端の方に向かって、それぞれの数だけディールします。あなたが終わったら、同じことを相手にやってもらいます。

「いよいよステップ3です。最後はあなたと私が同時にやりましょう。左端から右端に向かって、いちばん上のカードを表向きにしていくのです」と言って、そのようにやります。あなたは相手が表向きにするスピードに合わせて、ほとんど同時に表返すようにします。

なお表向きにする順番ですが、相手に相手の左端からやらせ、あなたはあなたの右端からやるというやり方も考えられますが、そのようにやって対面する2枚が同じマークでないのは見かけがよくないですから、あなたもあなたの左端から表返していった方がよいと思います。

「というわけで、4枚のKとQが現れました」と言って終わります。


4枚のKとQが現れるのですから、それなりの演出やセリフをつけてもよいと思うかもしれませんが、ときには数理トリックを数理トリックの味わいのまま演じるのも、ひとつのやり方であるような気がします。