カードマジック研究室

No. 046

2017年5月26日



第3回天海フォーラムに出席して

「マジックをやっていて本当によかった」と思ったことは、いままでに数回はありますが、今回は歳をとってからの感動ですから、「生きていてよかった」とさえ思えるぐらいです。

第3回天海フォーラムで澤浩氏のマジックを見られたことは、最近、韓国マジック界に押され気味で滅入っていた気持ちを明るくしてくれるものでした。"日本には澤浩がいる"、そう思っただけでとても気分がよくなりました。

澤さんが見せてくれたのは、ロープでは色々な種類の現象を演じられて、ロープだけでこんなに様々な不思議さがあるのかと驚かされましたし、スポンジボール、'真珠物語'、そして'火の鳥'と題された、スケールの大きい'鳩出し'を見たときには、胸が打ち震え、涙が落ちてきました。どれもこれもが、見たこともないようなものでした。

フォーラムの詳しい内容については、誰かがどこかに紹介すると思いますので、私は重要なことを書き残しておきたいと思います。

これは澤さんが語られた天海師から教えられた、マジックをやる上でいちばん重要なことです。それは天海師が、
「マジックに上手も下手もなかりけり、行く先々の水に合わねば」と言われたということです。

たぶん中年以上の方は、その言葉の意味がわかると思いますが、若い人にはさっぱりわからないでしょう。わかりやすく言えば、マジックをうまくやれたかどうかよりも、やったマジックが、やった場所、見ていただいた人々、そのときの状況にふさわしいものであり、喜んでいただけたかどうかが重要だ、という意味です。

不思議がらすことに成功したとか、楽しませるのに成功したとか、そういうことは必要条件ではあっても、絶対条件ではないのです。

わかりやすいケースをあげておきましょう。あなたがビジネスショーにおいて、ある会社の新製品を紹介するために、その会社のブースの入り口において、クロースアップマジックを演じたとしましょう。

もちろんマジックをうまくやること、客受けすること、それは必要条件です。最終的な目的は、マジックを演じることによって、そのブースに多くの客を集めたかということと、その会社の新製品をうまく紹介できたかどうかにかかっているのです。そこに焦点を当てて演じ方を構成しなければいけないのです。ただマジックをうまくやればよい、などというのではありません。

誕生日でマジックをやるときには、自分が主役になるような演じ方をしてはなりません。誕生日の主役は誕生日を迎えた人です。その人を主役として輝かせるようなことをやるべきです。間違えても、その人に手伝わせて、'客いじり'のようなマジックをやってはいけません。

マジッククラブの発表会で重要ことはどんなことでしょうか。もちろん楽しい会であったと思わせることが必要不可欠です。それに加えて重要なことは、出演者のバランスだと思います。子供、若い人、大人、年寄、男女などの出演者がいることが望まれます。

マジッククラブの発表会は、マジックを見せるだけでなく、新会員に入会してもらうことが重要なことであるからです。そのことを念頭に置いて、ショーを構成することが望まれます。

マジックは自分の楽しみのためだけではなく、マジックを見てくれた人に対して、そしてマジックを演ずる機会を提供してくれた人に対して、あなたのマジックが価値を与えるものでなければなりません。

違う言い方をするとすれば、マジックをやるときには目標を設定して、その目標を達成するように努力することです。もちろん目標が、"ただお互いに楽しむ"という単純なものであってもかまいません。"お互いに"ということが重要です。



今回は、澤さんにびっくりさせられたことがあります。それは澤さんのロープマジックの作品数の多さです。46年まえに澤さんの家にうかがったときには、タンスのひとつの引き出しの中には、30個ぐらいのロープの束があって、ひとつひとつが違う作品でした。


しかしながら今回のフォーラムの打ち合わせにうかがったときには、ロープ作品を入れる収納は、背丈より高い収納の上から下までぎっしり詰まっていました。引き出しは24個あり、ひとつの引き出しに平均3種類ぐらい入っているのです。澤さんの許可をいただいたので、写真を紹介します。

宮中桂煥氏が書かれた"澤浩のロープ奇術"には23作品が解説されていますが、これだけ多くの作品の中から優秀作品を厳選して発表されたということがわかります。

同書に解説されている'オキ'というマジックはフォーラムで演じられました。素晴らしかったです。カントリーミュージックをバックに、カントリースタイルの衣裳で演じるという、思わず客席から手拍子が出るようなリズミカルな演技でした。私は「ブラボー」と叫びたい気持ちでした。



私は今回、澤浩のマジックの根幹を確信いたしました。それは、澤浩のマジックは'演出'が先にあるということです。方法や手順に合わせて演出を考えるのではなく、演出が先にあって、それに合う現象と方法を採用するということです。それとも、演出と現象と方法が、同時に澤さんの頭の中に生まれるのでしょうか。

今回のフォーラムにおける対談で、私は澤さんにつぎのように問いかけました。

「私は澤さんよりより1歳年下ですが、この歳になると記憶力が衰えるのは当然ですが、クリエーションのレベルは昔より高くなっていて、アイデアも昔よりどんどん出てきますし、考え始めてから結論に達する時間がまえよりずっと短くなっています。澤さんはいかがですか」。

澤さんは答えられました。

「いま加藤さんが言ったことは、私もまったく同じです」と。

歳をとって老人になるということは、けして衰えることばかりではないのです。創作活動が豊かになると同時に、マジックへの情熱もさらに高まっていき、より充実した時間が過ごせるようになるのです。本当に、マジックをやっていてよかったです。

澤さん、素敵な1日を有り難うございました。

追伸

天海フォーラムを開催されたMN7の皆様、および協力者の皆様、ご苦労様でした。毎年このような有意義な会をやっていただき、有り難うございます。中村さん、宮中さん、澤さんの家にドライブで行って、2日間打ち合わせただけの価値がありました。その2日間も、想い出に残ることでしょう。